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札幌高等裁判所 昭和25年(う)308号 判決

控訴人 被告人 渡辺徳次郎

弁護人 海老名利一

検察官 小松不二雄関与

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人の控訴趣意は別紙のとおりである

第一点

本件記録並びに原審の取調べた証拠に現われた諸般の事情を綜合すれば原審が被告人に対し懲役八月の実刑を科したのは量刑相当である弁護人は被告人は昭和二十四年十一月九日より同二十五年六月二十二日迄七ケ月二十余日勾留されていたもので原審がかかる長期の勾留を看過したのは被告人の人格尊重の精神を無視したものである旨を主張するけれども本件記録に徴すれば被告人は本件につき昭和二十四年十二月一五日札幌簡易裁判所で懲役十月に処せられ同年同月十九日被告人から該判決を不服として控訴の申立があり同二十五年三月十七日当裁判所において原判決を破棄する本件を札幌簡易裁判所に差し戻す旨の判決がなされたものであることが明白であるから刑事訴訟法第四百九十五条により被告人が前記控訴をした昭和二十四年十二月十九日以降保釈までの勾留日数は全部法定通算となるのであるから、原審が本件勾留につき何等の考慮を払はなかつたことは正当であつて論旨は理由がない

第二点

原審第二回公判調書(記録一〇七丁以下)によれば裁判官は訴訟関係人に対し他に提出すべき証拠があるか何うか尋ね且つ反証の取調の請求等により証拠の証明力を争うことができる旨を告げ訴訟関係人はいずれもない旨述べた後弁護人から続行の申立があり検察官は続行に同意したのであるが裁判官は弁護人の続行申請を却下し証拠調終了を宜し検事の論告の後弁護人が辞任届を提出した為裁判官は直ちに弁護士諸留嘉之助を本件被告人の弁護人に選任し該弁護人は審理の終結につき同意した上弁論をなした事実が明白である右の如く既に弁護人において新な証拠もなく反証もないと述べた後公判の続行を求めた場合に之を却下した原審の措置は何等弁護権の制限となるものではなくしかも原審は弁護人の辞任した後国選弁護人を選任し同弁護人の意見を求めた上審理を終結したことが明白である以上原審には判決に影響を及ぼす訴訟手続違反の違法はない論旨は理由がない

よつて刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却すべきものとし主文のとおり判決する

(裁判長判事 黒田俊一 判事猪股薫 判事鈴木進)

弁護人の控訴趣意

一、量刑不当である。本件被告事件は札幌簡易裁判所に於て懲役一年の判決を受け控訴の結果札幌高等裁判所に於て破棄差戻を受けたものである。

本件被告事件は頭初より被告人が犯行を自白して居たものである然るに原審裁判所(破棄された裁判所)は証拠の採用を誤つた結果破棄差戻を受けたのである。

被告人は起訴前である昭和二十四年十一月九日より破棄差戻裁判所、原審裁判所及当控訴中である昭和二十五年六月二十二日(保釈決定書)迄七ケ月二十余日勾留されて居たものである。

本件の如き自白して居るものは平易な事件である事は原審懲役八月を言渡して居る事実及公判調書よりして明かである斯様の事件に対して七ケ月二十余日に亘る長期勾留は勾留の実質的効果は懲役に服すると同一である原審判決は八月であるに勾留が前記の如くにして実質には言渡の程を経過したと同一である此の長期に至る勾留を原判決は看過して居る。

尚右の長期勾留の原因は破棄差戻を受けた原裁判所の過失に基くものにして其の結果被告人を不当に永きに亘り勾留させたもので全く被告人無過失に基くものにして此の責任は国が負担すべきもので被告人が負担すべきものでなかつた斯る点を看過した原判決は人格尊重の精神を無視したものである。

二、審理不尽 第二回公判調書(記録一〇二丁以下)に依ると証拠調終了を告げる以前に弁護人より公判の続行を求めたるところ検察官は同意したるに拘らず裁判所は之を却下し弁護人は弁論準備出来ぬ為弁護人の地位を辞退した然るに裁判所は直に被告人の同意を得ず国選弁護人を選任して弁論を為さしめたものである国選弁護人は公判続行に付差支ない旨述て居るが斯の如き僅少な事件で本件犯行の事実、審理の経過、犯行の動機及状情に関する事項を理解することは不可能である且被告人の意に反する弁護人をして弁論なさしめることは被告人の弁護権を不当に制限するものである。

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